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キャロルko

130707carol
キャロル好きすぎだろ俺

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ああ、疲れたと思って職場から帰宅したの30分前…

おお!キャロルのKOポーズを別アングルから描いたみたんですね!
力無く開いた口が良いですなぁ…
戦いによる苦痛から完全に解放されず、喘ぐ様に弱弱しく湿った吐息が漏れているワケですな。

個人的にキャロルのKOは2D格闘の中でも最もグッと来ます。
マンガ風含め様々なバリエーション期待してます

No title

キャロルのデザインは秀逸ですからね。凄くエロチック。

No title

キャロルは好きなんですけど不遇ですよね
倒れ方が好きなんで別アングルで描きました
そういやガラケーのSNKダンジョンゲーですごくかわいかった

キャロル大好きです中学生の時にこれとサムライスピリッツのシャルロットでリョナ開眼しました。
マンガなんかもあると凄く嬉しいです
追記ゲームも最高です
続編期待しています

No title

当時、自分ガキだったんでシャルロットはババアすぎだろ・・・とか思ってたんですが
今は27歳?全然ストライクです!みたいな感じになりました。
ゲームは最近色々忙しいので絵を描くんで精一杯ですね
暇になったらアイデアあるんでいろいろ作りたいですが

久々に…その2

意識が覚醒していくと共に、キャロルは自分が今横たわっているのが、先ほどまで居た廃ビルの鉄骨ではない事に気が付いた。
ずっと優しく、滑らかな肌触り。1秒ほどして、自分が布団、それも最上級に上質な布団に横たわっていた事を理解する。
 「確か私は…」
 自分の直近に記憶を思い起こす。
 「…ッ」
 彼女の形の良い眉が歪んだ。
 「アイツは?ジョーカー…」
 辺りを見渡すが、目の前は暗く、殆ど視界が効かない。
 慎重に起き上がり、布団から離れて地面に足を付ける。
 硬く、磨きこまれて冷たい床。大理石の床だ。
 と、同時に自分が今、自分が素足である事に気が付く。
 自分が着ているのは、ついさっきまで来ていた馴染みのあるあの服じゃない。
 ネグリジェだ。
 「私、誰かに連れ去られた」
 ほんの数秒、キャロルは不安の虜となったが、それを振り払うと、前へと進み始めた。
 判らなければ確かめれば良い。
 彼女は基本的に後ろ向きの考え方を嫌った。今回の旅もその考え方に従ったが為だった。

暗闇に慣れてきた目で辺りを伺う。
年度を経た調度品は趣味良く並べられている。
しかし、それらこの部屋に来た者に、安らぎを与える為のものではなかった。
威圧感、物理的に自分の肉体が重くなり、跪かずには居られない様な威圧感だ。

「ここは…城?」

思わず声を漏らすキャロル。
澄んだ声は、部屋で共鳴し、その音に、発した自分が驚いてしまった事に恥じた
「…」
傍らに転がっていた自分の分身であり、武器でもあるボールを見つけて懐に抱えていくと、少し心が落ち着いた。
そして記憶を掘り起こしながら、慎重に前へと歩みを進めた。

「…ッ!」
目の前の光景に思わず後ずさりした。
メークをし損なった道化師の様な異相の男の顔があった。

つい先ほど迄、自分はこの男と戦い…そして
「…」
神経が高ぶり、鼓動が早まった。
片足を地面から放し、鷺足の構えを取りながら目の前を凝視する。
唾液を飲み込んだ。
大丈夫、恐怖は感じない。未だやれる
「ジョーカーッ。ここは何処ッ。何の手品?」
 彼女は右手にボールを構えなおした。
「さっきは、上手くいった様だけど。二度も同じ手が通じると思って?」
ジョーカーは、相手を嘲笑する表情のままキャロルを凝視している。
 キャロルの中で屈辱と怒りが混在した黒い感情が湧きあがる。
「…ふざけている積りならッ。今度は…」
 キャロルは精神を集中した。
 下腹部で血流が渦巻くのを感じると、その感覚を右手のボールに送り込んだ。
 気功、プラーナ-名称は幾つかあるが、彼女にとっては手足同様に使いこなす力。
 ボールを中核にして、気をまとわりつかせると、一気に投げつけた。
 -ルードボール
 自分でも気に入っている名前だった。当たれば、素人であれば骨折させる事も出来る威力。
 しかし、ジョーカーは素人ではない。避けるか、受け止めるか。何れにせよ反撃に移る筈だ。

ジョーカーは避けなかった。ルードボールの衝撃と共に声も上げずに遠くへ飛んでいく。
「え?」
キャロルは混乱したが、直ぐに構え直す
油断は出来ない。常人には理解出来ない面を持つあの男。
「おかしな所に連れ込んで、私の技を受けて。今度は何の真似?」
キャロルは、相手を凝視しながら間合いを詰めた。
 しかし、その歩みが止まった。
「…」
ジョーカーの唇から血が垂れていく。
血だけでない、舌もだ。
目は何の感情も浮かぶことなく、キャロルを見つめていた。
そして、首筋からも血が垂れる。
「ヒ…ヒッ」
 キャロルは後ずさった。
 ジョーカーの首から下は無かった。
 自分はジョーカーの首にボールを当て、それでここまで飛ばされたに過ぎない。

「あ…嗚呼。い、一体…」
 キャロルは膝から力が抜けていくのを感じた。
 自分はジョーカーに負け、気を失った事は覚えている。
 だが、そのジョーカーは誰かに殺され、自分は得体の知れない城にいる。
 一体何が?自分とジョーカーは何故ここに?
 
「ほう」
 声が響いた。冷たい、何の感情も籠っていない声。
 キャロルは辺りを見渡した。誰の気配も感じない。
 しかし、あれはスピーカーではなく、人の口から発せられた声だ。
 再度、その声が響いた
 「腕は立つと言っても、年端もいかぬ娘。可愛い悲鳴をだすものよ」
 「だ、誰?」
  脚が後ずさっていく。その事を叱咤しながらも、彼女は全身の震えを抑えられなかった。
 「…ッ!!」
 目の前の光景に絶句した。
 剣、それも巨大な剣だ。
 かつて神話の時代の英雄が持っていたかの様な巨大な剣。オープンフィンガーグローブで覆われた手がそれを持っている。
 やがて他の燭台にも火が付き、剣の持ち主の姿を映した。
 神話の時代の剣を持つに相応しい、神話の肉体を持つ男。
 
 しかし、その姿は…

 上古に失われて久しい慣わしを、未だ身に着けているかの様な鎧と巨大な外套。
 だが、頭部は兜ではなく、ミラーグラスのゴーグルで覆われ、頭部はその男の闘気を示すがごとく天に逆立ち、鬣の様に聳えだっていた。
 食物連鎖の頂点に立つ猛獣が、人の知性を併せ持ち、二本足で立っていた
「獅子…狼」
 キャロルは茫然と呟いた。
「獅子…が正しいな」
 初めて男の声に感情が混じった。
笑いだ。

「キャロル・スタンザックよ。我が城へ、よくぞ来た」
 男の声から感情が消える。
「し、城?」
「そうだ。余がここにそなたを運んだ。
この様な道化者に、貴様を辱められる訳にはいかんのでな」
「辱…め?」
「我が妻となる女。あの様な下賤な者が触れて良いものではない」。
 「…ッ」
 その言葉を聞くと同時に、彼女の肉体は弾かれたかの様に後天に幾度も跳んだ。宙返りをして身構えたキャロルから、一人の男の名が漏れる
「獅子…王」
「…」
獅子王と呼ばれた男は、剣を収め、穏やかに呟いた。
キャロルは、獅子王を凝視した。
何と言う威圧感。城自身が持つ空気と合わさったそれは、キャロルの全身を総毛立たせた。

男の背景に映像が浮かぶ、実写によるホログラム。そこでは、首を失ったジョーカーの胴体が転がり、そしてその背後で、意識の無いキャロルを肩に担いだ獅子王が居た。
「その通りだ。我がお前の夫となる男。獅子王」
「…」
背後のホログラム映像では、獅子王がキャロルの背と膝に腕を差し入れ、抱き上げていた。腕、脚は、ダラリと垂れ下り、横顔の稜線が地面と垂直の線を描くまで首が反り返る。
髪が滝の様に垂れ、項が露わになった。
そのまま歩みだす獅子王の動きに合わせて、力の抜けきった肉体は四肢と首を揺らしていた。
そこで映像が途切れた。
大きくのけ反った首によって表情が隠れていた事はキャロルを僅かばかり安堵させた
が、屈辱、そして恐怖に彼女は震えた。このまま逃げてしまいたい。
しかし…
「…」
キャロルは動かなかった。
「動けぬか?では、余が我が閨に運んでやろう」
獅子王はキャロルへと歩み寄る
「………フフ」
「…?」
獅子王の歩みがとまった。
「…闘気?
どうしたのだ?キャロル?」
「…貴方…強そうだけど、余り頭は良くなさそうね」
「何?」
「…ここまで連れてきてくれてありがとう。私、ここに来たかったのよ
でも、勘違いしないでね。私、貴方の戦利品の一つになる積りはなくてよ。
貴方が、私の戦利品になるの。
自由の証に」
 獅子王は、キャロルを見つめたまま、無防備に立っていた。
「…」
「…どうしたの?獅子王」
「…イヤ。その感嘆しておる」
「感嘆?」
「…先ほどの敗北から学びこそすれ、聊かも怖れに汚されておらん。
 ますますもって、お前を妻にしたくなったぞ」
「…ッ」
 唾を飲み込むキャロル。
「来たれ」
獅子王は踵を返すと、キャロルをある一室へと案内した。

  そこには、キャロルが普段ショーで身に纏うあの服があった。
  だが、細部が微妙に異なる。
「…これは?」
「我が繕わせた。」
彼女は服に手を触れた。違和感を覚える
「似ているけど…少し違う?」
 レオタードの生地は上質だが、遥かに強靭なケブラー素材で出来ている。
 鎧を模した外装は、セラミックか何かで出来ているのだろうか、軽く、硬かった。そして繊細な装飾が施されている。
  「我は向かいの謁見の間にて待つ」
  「…どういう事?」
「立ち合いだ。その防具を来て待つが良い。
お前が我妻に相応しい事を証明しようではないか」
「…本気?」
「衣装の作りに不満があれば申せ。満足いくまで誂え直させよう」
「…何か随分と凝っている造りだけど?」
「余の気遣いと思って戴きたいな。キャロル。
 防具としては、お前が用いていたものと比較にならぬ程、耐衝撃、耐切創性が良い。
普段の衣装では、お前に傷を残すばかりか、死に至らしめるやも知れん。
余は戯れに剣を振るう趣は有さぬ」
「…随分と自身がおありのようだけど、私が勝ったら?」
「お前の好きにするが良い」
「有難う。ご配慮に感謝するわ」
「…準備が出来たら部屋に入れ。我が参る」
  獅子王は、立ち合いの場所を告げて部屋を後にした。

久々に その3

 俺は、跪き目の前の主人に相対していた。
「王よ。準備は万端であります」
「そうか。先の手筈。見事であったぞ」
事務的な口調で放たれた男の声。しかし、俺はその声に畏怖とまでは言わぬが緊張を覚えていた。
「指示は何時もの通り、ゴーグルに表示される。その指示に従えば、後はお前の好きにして良い」
「しかし…」
 そこで、言葉を止めた。
この男に対して答えを引き出す時は、質問を全て先まで言わない方が良い。
「何故、妃となる女に自ら会おうとしない、と?
余自らが剣を振るうと、花を手折りかねないのでな。
 その点お前なら心配なかろう」
「それで私が?」言葉に険が入った事が自分でも判った。
「…影よ、未だ判っておらぬようだな。
お前が手折れると思っているのか?」
 影、と俺の事を呼ぶ時は、俺の事を見下していると言う事はこれまでの付き合いで判っている。
「オリジナルを持ってもお前では、あの花は切れぬよ。刃引きをせず立ち会ってみたらどうだ」
「…ッ」
正気か?ソード・オブ・レオのレプリカでなく、本物、それを刃引き無しで?
人間、それも小娘なぞ肉片になってしまうぞ。
「そこで驚くようでは、まだ、影が光に届く事は出来ん。
あの娘との立ち合いでそれに気付けば…良いが、な」
 …怒り、困惑、屈辱。それらを俺は押し殺した
「…ご配慮、痛みります」
「おお、キャロルの支度が出来た様だ。出迎えてやれ。」
 俺は一礼すると、部屋を後にした。
 
 あの男の影となって数年。あの男の強さに近づきたいと願った。その為に全てを捨てた。だが、一向にあの男の頂が見えない。
何度も立ち会ったが、結果は何時も俺の惨敗で終わった。
薬物による肉体強化、天性の才能。手練の差。幾つもの理由を考えたが自身で納得いった解答ではなかった。
俺に何が足りない。

俺は立ち止まり、自らの手を見た。
多くの命を奪った手。この手が通常の幸せを掴む事はあるまいがそれは良い。
あの娘、キャロルは獅子王の妻となるだろう。あの肉体を味わう事も取る事もないが、それも良い。
だが、影が影のまま終わる事は我慢が出来ない。
俺は拳を握った。
この手で、全てを掴む筈だった。
それが何故。
最近。自分の中に沸き起こった感情を整理するのに時間がかかる様になったと思いながら俺は部屋の扉を開いた。
立ち合いの場となる謁見の間。湖に突き出た古城の大広間だ。
燈火の照明で照らされ、広間の中央にある10mを超える巨大な獅子の像が浮かぶ。
その前にキャロルが居た。

アスリートを思わせる、細身で美しく伸びた肢体。
砂金を浮かせた美酒が滴り落ちるかの様に流れる薄い色の金髪は、リボン一つで結わえられている。
その存在感を大きく主張する乳房を持つ肉体を包むのは、俺の主人である獅子王が用意した衣装だ。
一つ間違えれば、俺が子供の頃見た子供だましのショーに見えかねない衣服であったが、立体感溢れる造形、細部まで繊細に施されたエングレーブに象嵌と、上質な繊維によって形作られたそれは、それを纏う存在に有無を言わせぬ説得力を与えていた。
「…美しいではないか」
お世辞ではなく、確かに、美しかった。
「ありがとう。中々に良い着心地ね。少し見直したわ」
冗談混じりの口調と正反対に、キャロルの目は瞬きをする事もなく、俺を射抜いていた。良い目だ。
「用意は良いか…」
俺はソード・オブ・レオを抜いて、剣礼を捧げた。
「…どうぞ」
キャロルはカーテシーを以て返礼した。
イヤホン越しに、主人の声が響いた
「手加減はするな」
同時に、目の前の少女からも
「手加減は止めてよね」
と声が響く。
血液が逆流する。ふざけるな、と言う言葉を呑みこみ、剣を上段から振りおろした。
だが、剣は地面を割ったのみであった。
キャロルは片足で軽く跳躍し、彼女を両断する筈であった一撃を交わすと、一回転して、そのまま俺の懐に入り込むと同時に、片手のボールを左脇に向かって放った。
衝撃が走った。鎧を着ていなければ肋骨をへし折られていただろう。
後ずさりした。予定した行為ではない。衝撃、そして痛みによって後ずさってしまった。驚愕した。
ピルエットからパ・アッサンブレの動きで攻撃かわし、そのまま劈拳でのカウンター。バレエから形意拳の動き。何れにも無駄がなく、且つ継ぎ目を感じさせる事なく両者の動きが融和している。攻撃、防御とも1流と言って良い。
「恥をかかせる気か?」
主人が侮蔑と怒りが混じった声が聞こえた。
目の前のキャロルは優雅な動きでステップを踏みながら、不敵な表情でこちらを見ていた。
「…」
俺は立ちあがり、全身の力を抜いて構えた。サバット特有の構え。
キャロルの顔から一瞬笑みが消え、そして戻った
「行くわよッ」
ゴム毬の様に弾力を帯びた肉体が、一瞬鋼線を通したかの様に硬くなったかと同時に視界から消え、俺に向かっていった。

久々に その4

立ち会いが始まって5分が経過していた。
俺は自身の有利を確信した。否、勝利は既に確定していた。
俺の眼前で、キャロルは荒い息を継ぎながら、辛うじて立っている状態だった。
白く滑らかは肌の所々に打撲痕、切傷が浮かんでいる。
「ハァッ」
呼吸を整えて俺に向かって前方にボールを支点にして身体を素早く回転させる。その途中で身体を捻らせ、踵を俺の頭上に振り下ろした。
スワンダイビングと彼女自身は称している。優雅さは白鳥かもしれないが、放たれる速度は猛禽類のそれであり、巨大な草食獣の重さを兼ね備えていた。
しかし…彼女は次の瞬間悪夢を見る事になった。
必殺の鉈と化した彼女の脚を受け止めた。
「え???」
彼女に反応する暇を与えず、喉を掴み、そのまま放り投げる。
「アグッ」
そのまま追い打ちとしてローキックを放ったが、彼女は辛うじてかわした事で空を切った。
そのまま後方に回転しながら距離を離そうとする。
しかし、
「その動きは、避けた方が良いな」
回転するキャロルに話しかけながら俺は一気に前方に跳躍した。
後方回転は確かに見た目も美しく効率的に後方に下がれる。
だが、自身の視界を一瞬損なう。
彼女に半回転する暇も与えず俺の身体はキャロルの眼前に立つ。
鎧に仕込まれた各種薬剤を体内に注入する必要なしで。
「エ…」
一瞬にして目の前に来た俺の姿にキャロルの思考は一瞬停止した。
跳躍の間俺は自分の剣を抜き、剣を持った右手を耳の辺りまで上げて、左手を軽く添えた。
示現流蜻蛉の構え。
そして、そのまま丹田に”気”を巡らせると大地を割らんばかりの気迫を込めて一気に振り下ろした。

「アースチョッパー!」
剣の切っ先は彼女から数寸離れていたが、そこから俺の気が衝撃波となって彼女の胴体を抉り、くの字型にへし折った。
「…ハクゥ!!」

細身の体はへし折られた姿勢のまま、柱に向かって力学台車の様に吹き飛ばされた。
何か硬いもの同士がぶつかる鈍い衝撃音と共に肺の全ての空気を押し出した様なキャロルの叫びが一瞬耳に入った。
「………オフッ!!!」

吹き飛ばられたキャロルの軌跡が柱によって変わった。
不規則に回転しながら、壊れたマネキン人形の様に広間の壁まで転がり、手足を投げ出し仰向けになり動かなくなった。

手加減はしなかった。
全力の攻撃だ。
並の人間なら、あの剣気だけで二つ割りになる。
そうならなかったのは彼女の素質と、特別にあてがえられた鎧。そして俺が僅かに気を緩めた。
全力とは言っても、殺しては主人に申し訳が立たない。

俺は、ソード・オブ・レオを収めると、ゆっくりと彼女に近づいた。
仰向けになったキャロル。投げ出された四肢はピクリとも動かない。
僅かに横向きに反り返った顔は、こちらを見つめる形になっていたが、眠る様な表情のまま、何の感情も見られなかった。
 閉じられた目、僅かに開いた口。
 その時、俺はキャロルの肌の血色が異常に悪い事に気が付いた。
ゴーグルに仕込まれたサーモグラフィーを高感度で起動させる。微弱な体温変動も測定できるゴーグルは、キャロルの心臓、そしてその周辺温度が急激に落ち始めている事を示していた。

 それは心臓が機能を停止した事を意味している。
 俺は慌てて、彼女に駆け寄った。
彼女を殺しては不味い。
心臓が止まったとすれば、直ぐに主人の侍医に救命手当をさせなくてはッ
彼女の僅かに温もりが残っている首筋を触る。
脈が無い。

直ぐに医師に連絡しようとした瞬間。
「バカめ」
と言う声が響き、
キャロルが目を開けた。
そのまま、一気に身体のバネを活かして廻旋脚で放った。
激しい痛みが側頭部に走り視界がゆがむ。
その一瞬のスキに、彼女は後方回転しがら跳躍した。

一度距離を離す。
…積りだったのだろう。
そこで膝をついて座り込んでいた。

俺は軽く頭を振り意識を鮮明にすると、手足の感覚を確認しながらソード・オブ・レオを構えた。
キャロルはその場から動かず跪いたまま荒い息を繰り返している。
サーモグラフィーの結果は、彼女の体温が未だ平常に戻っていない事を示していた。
恐らく、これが本当に彼女の体力の限界だったのだろう


しかし…確かに心臓が止まっていた筈だったのに…
「油断したな」イヤフォンから主人の声が響く
「あり得ません」
嘘偽りなく答えた。
戦い意志が止まった心臓を再度鼓動させる事などあるものか。
それはおとぎ話の世界だけだ。

「…彼女の鎧を見てみろ」。
ゴーグルに彼女の鎧の拡大映像が入った。
そこには、鎧には似つかわしくない機械が仕込まれている。
「…AED」
「超小型のな。我が医療機関が開発に成功したばかりのものだ」
「それを彼女に?そこまで入れ込まれている、と」

「…わかっておらんな。あのAEDは未完成だ。動作は保障されないし、一歩間違えれば誤作動によって対象の神経機能を破壊する程の電流を出す」
「ならば何故」
俺は、茫然と聞いていた
「彼女が望んだからだ。あの鎧と共に、その説明を行ったが、それを承知で彼女は使用した。
勝つために」
死の恐怖を感じないと言うのか?

俺は茫然としながら剣を抜き、彼女に迫った。
「お前にそこまでの覚悟があったかな?」
「剣を僅かにそらした。
これ程の決意で挑む娘の真意を理解出来ていないお前が…」
「我はお前に何と言ったか忘れたか?あの花は切れぬ」
「…」

俺は答えに詰まりながら、剣を抜いた。
ソード・オブ・レオで、彼女の首を刎ねるに丁度良い距離。
柄に手をかけて、腰を落とす。
しかし、彼女は反応出来なかった。
激しく咳き込む。血が混じった唾液が彼女の小ぶりで薄い唇から吐き出される。
続いて薄く朱に染められた唾液が唇から。
「…ッ」
キッと柄から僅かに覗くソード・オブ・レオの刀身を睨みつけた。
この剣の由来はそれ程古いものではない。由来さえ定かではない程太古の剣である俺の主人の剣「ゴッド・オブ・レオ」を模して、200年ほど前に日本の陶工に作らせたらしい。
本当かどうかは知らない。だが、柔軟さと強靭さを兼ね備えた芯と、刃の波打つ文様を見ると、それが真実に思える。
事実、俺が学んだ居合の達人も驚嘆する出来栄え、腕さえあれば七ツ胴は可能だと言って良い逸品だと評していた。

「大したものだ」
「…ク」
「心臓を再度動かすとは、な」
「…ア、貴方みたい相手には効くか、…と思ったんだけどな」
「…何?」
「強いけど一本調子の相手には、狸寝入りって効くのよ」
「そこまで…そこまでして勝ちたいか」
「死の危険さえ乗り越えても、自由を得たいか?」
「…当然…よ」

「ハァッ…ハァッ…」
キャロルは漸く立ち上がった。既に、その足は自らの持ち主を支える事もままならなくなっている様だった。震え、縺れながら、こちらを見据える。
「だが、ここまでだ。諦めて運命を受け入れよ」
こちらを見据えた表情には笑みが浮かんでいた。
「フ…フフ…どうしたの?なんか、心の底からのセリフって感じじゃないわね。
案外怖がってるんじゃない」
…ッ、思わず動きが止まった
…見抜かれた。
「…強がりはよせ」
「どう…かしらッ」
彼女は猛然とこちらに走りこんだ。よろけながら。
最期の足掻き。俺はソード・オブ・レオを持ちかえた。
剣の柄で彼女の水月を撃ち抜き、気絶させる。
何故、俺の心を見抜けたかは、後日ゆっくり聞く事にしよう。

柄を彼女の鳩尾に放った。空を切った。
一瞬思考が停止した。
避けられた?
その考えが浮かんだ時点で、キャロルの澄んだ声が上空から響いた。
「まだよッ」
キャロルは自分が与えたダメージをまるで感じず上空に高々と、白鳥に様に舞い上がった。
「ナーティーボール!!」
彼女は手に持ったボールを放った。
そこに莫大な”気”が込められていた。あれを喰らったら不味い。
こちらも後方に跳んだ。
しかし、キャロルの”気”に覆われたボールは、物理ではあり得ない角度で曲がりながら俺の動きを追尾してきた。
何故そんな事が?
その現象を理解する前に、俺の腕は反射的にソード・オブ・レオでボールを防ごうとした。
しかし”気”は、ボールに砲弾の様な重さを与え、剣を軽々と弾き、そのまま俺に直撃した。

一瞬、意識が途切れ、その直後猛烈な激痛と共に、俺の身体は後方に跳んだ。否、吹き飛ばされていた。
そのまま無様に尻もちつき、俺は仰向けに倒れこんだ。
息が出来ない。
視界が滲み、猛烈な悪寒と頭痛に襲われる。
自分の手足さえ認識出来ない。
打撃による脳震盪。
何年ぶりだ。

“気”だ。それがボールに本来の何倍もの質量を与えた。そして俺の体にめり込んだ直後、内部に込められた”気”は解放され、巨大な衝撃波となって俺の内臓に食い込んでいった。


これ程の一撃。俺の主とのスパーリングでも無かった。
苦痛が、俺の意識を辛うじて繋ぎ止めていた。
歪んだ視界の中、よろめきながら近づく人影があった、キャロルだ。
形の良い唇から声が発せられた
「貴方…甘いわね。私はそう簡単に貴方に手籠めにされる気はないわよ」
「この様な小技を使うとは…」
そう返すのが精一杯だった。

脚に力が入らず、我ながら情けない程、腰が引けた姿勢しか取れない。
『違うな』
主からの声がレシーバー越しに響いた。
『お前は、あの娘より劣っているのだ』
劣っている。
馬鹿な。油断しただけ。
本気になれば…
『本気になればとか思ったろう』
思考が止まった。まるで小説の中の間抜けな悪役になった気持ちだった。
『諦める事だ
お前は、本気になどなれない。闘いの本能を捨てたお前には、な』
主は言葉を続け、そこにキャロルの言葉が被さった。
「どうしたの?本気を出す前に、入れ歯の牙を抜いて降参?」
否、キャロルの口から主の言葉が放たれていた
『お前は格闘技の理屈だけに従って行動し、彼女はそれさえも捨て、死の恐怖も乗り越えて自らの本能に身を委ね、全ての力を放った』
背中に汗が湧くのを感じた。
自分の全てが一枚一枚剥がされていく感覚だ。
『だが、お前は何だ?強さを求めると言っておきながら、主に対する諂いを覚え、徒に技ばかりを覚え、自らの力を剥き出しにする事を忘れた』
やがて、目の前の少女は、俺の主。直立する獅子へと姿を変えた。
「牙を捨てた狼ってワケね。飼い犬としては良いかも」
目の前の人影が、キャロルと言う少女か?主人か?それとも本物の獅子か?最早俺には判らなかった。
それは、呼吸を整えると、再度上空へと跳躍した
「もうお前に用は無い」

違う。
俺は…俺は牙を捨てちゃいない。
俺の中で何かが弾けた。
眼前の獅子が俺に襲い掛かる。
「失せろ」

失せるのはお前だ。
相手が何であれ、殺す。
俺は獅子。百獣の王。例え相手が傷ついた小鹿や、兎だろうが、猛り狂う巨象だろうが食い殺す。
臍の下、丹田に回転する血流を感じた。
力が漲る。全身の筋肉が鋼より硬くなる。だが、同時にバネの様に撓み、力をため込む。
今、自分は気を自在に扱えた。
あらゆる生命の流れを視覚として認識出来た。
空中の獲物は全身に流れる気脈を自らの牙に集中していた。
そして目の前の敵に向かって左足を踏み込み跳躍した。

その跳躍で俺の肉体は相手の眼前1m以内に近づいた。獲物の意識がその事実に反応する余裕を与えない積りだったし、事実反応出来なかった。
右足を軸に、獲物が武器にしていた薄紅色の球目がけて足刀蹴りを放つ。

軽い衝撃と共に足裏から球体を捉えた感覚が伝わる。
次の瞬間、敵が込た膨大な“気”と共に球体は俺の足裏に食い込む。
衝撃で制御を失った“気”は、本来の持ち主であった敵の掌を弾いた。
その“気”を乗せた球体を切っ先に、俺は照準を敵の顎に据えて蹴撃を放った。

脚の裏から入った衝撃。それは普段相手にしている大男や熊の骨を砕いた時と同じ。
いや、それ以上の衝撃を相手に与えた事を教えていた。
 クシャッ
筋繊維が、脊椎と内部の神経束が、限界を超えて引き伸ばされる音と共に、敵の首は、人間にはあり得ない程の角度で仰け反る。
自らが武器としていた球体に撃ち抜かれ、仰け反った真っ白な顎を視界に入る。
限界まで己の“気”を高めていた俺には球体に込められていた敵の“気”が出口を失い、その持ち主の体内に逆流していくのが把握出来た。
そのまま球体は俺の脚から砲弾と化して発射される。
発生した衝撃は、そのまま莫大な空気の波と化して敵の肉体と、その武器であった球体を吹き飛ばした。

敵を目で追った。俺の気から生じた衝撃波によって、敵の肉体は数m上方を、放物線を描いて錐揉みをしながら宙を舞った。
錐揉みする胴体に合わせ渦を描くような不自然な姿勢を取る四肢。
指が僅かに痙攣するのみで、防御も受け身も取る気配はない。
高速で回転する敵が僅かに見せる表情は、弛緩し、唇からは血が混じった涎が頬を流れ、大きく見開かれた瞳孔は上瞼に吸い込まれつつあった。光は殆ど失われていた。
 敵を無力化。
俺は勝った。

久々に その5

違う。
俺は…俺は牙を捨てちゃいない。
俺の中で何かが弾けた。
眼前の獅子が俺に襲い掛かる。
「失せろ」

失せるのはお前だ。
相手が何であれ、殺す。
俺は獅子。百獣の王。例え相手が傷ついた小鹿や、兎だろうが、猛り狂う巨象だろうが食い殺す。
臍の下、丹田に回転する血流を感じた。
力が漲る。全身の筋肉が鋼より硬くなる。だが、同時にバネの様に撓み、力をため込む。
今、自分は気を自在に扱えた。
あらゆる生命の流れを視覚として認識出来た。
空中の獲物は全身に流れる気脈を自らの牙に集中していた。
そして目の前の敵に向かって左足を踏み込み跳躍した。

その跳躍で俺の肉体は相手の眼前1m以内に近づいた。獲物の意識がその事実に反応する余裕を与えない積りだったし、事実反応出来なかった。
右足を軸に、獲物が武器にしていた薄紅色の球目がけて足刀蹴りを放つ。

軽い衝撃と共に足裏から球体を捉えた感覚が伝わる。
次の瞬間、敵が込た膨大な“気”と共に球体は俺の足裏に食い込む。
衝撃で制御を失った“気”は、本来の持ち主であった敵の掌を弾いた。
その“気”を乗せた球体を切っ先に、俺は照準を敵の顎に据えて蹴撃を放った。

脚の裏から入った衝撃。それは普段相手にしている大男や熊の骨を砕いた時と同じ。
いや、それ以上の衝撃を相手に与えた事を教えていた。
 クシャッ
筋繊維が、脊椎と内部の神経束が、限界を超えて引き伸ばされる音と共に、敵の首は、人間にはあり得ない程の角度で仰け反る。
自らが武器としていた球体に撃ち抜かれ、仰け反った真っ白な顎を視界に入る。
限界まで己の“気”を高めていた俺には球体に込められていた敵の“気”が出口を失い、その持ち主の体内に逆流していくのが把握出来た。
そのまま球体は俺の脚から砲弾と化して発射される。
発生した衝撃は、そのまま莫大な空気の波と化して敵の肉体と、その武器であった球体を吹き飛ばした。

敵を目で追った。俺の気から生じた衝撃波によって、敵の肉体は数m上方を、放物線を描いて錐揉みをしながら宙を舞った。
錐揉みする胴体に合わせ渦を描くような不自然な姿勢を取る四肢。
指が僅かに痙攣するのみで、防御も受け身も取る気配はない。
高速で回転する敵が僅かに見せる表情は、弛緩し、唇からは血が混じった涎が頬を流れ、大きく見開かれた瞳孔は上瞼に吸い込まれつつあった。光は殆ど失われていた。
 敵を無力化。
俺は勝った。

違う
これで終わりじゃない。
今放ったのは、前準備だ。体内の血流、呼吸、気脈が高鳴る。
全ての暖気が済んだ。
本当の攻撃はこれからだ。
鎧に仕込まれた興奮剤、薬剤を全て自分の体内に打ち込んだ。
一瞬、五臓六腑が避ける様な痛みが走り、直後にそれが消えた。
六感、時間、空間の感覚が消えていく

残されたのは、敵と、自分の気脈の感覚のみ。
敵の気脈は
拉げ、崩壊し始めていた。
完全に壊す。

体内の全身に”気”を丹田に溜め込みながら、俺は全力で敵に走りこんだ。
錐揉みしながら床に落下しつつある敵。その向こうは部屋の中央。
あの巨大な獅子の彫像があった事を俺は認識していた。

俺は上半身を一気に回転させ、その回転に伸ばした左腕を合わせた。
ラリアット。
それは正確に敵の中心を抉った。くの字型にへし折られる胴体。
そのまま腕を振り抜き、敵を大理石の獅子に叩きつける。
僅かに聴覚が反応する。
何か硬い物体がひび割れる音、続いて空気が弾ける音が聞こえた。
肉体が潰れ肺の空気が押し出されたんだろう。
敵は獅子の牙に絡み取られ、動かなくなった。
敵の気が急激に弱くなっていく。

俺は獅子の像を足掛かり上に跳んだ。
像を遥かに超えた高さまで跳躍する。
薬剤の効果、血流の流れ、気の流れ。全てを限界まで高めた結果だ
丹田が破裂せんばかりに気を溜め込むと同時に、全身の筋肉が一気に盛り上がった。
拳を砲弾と化す準備を整える。
丹田に限界を超えて蓄えられた気が拳に入り込んだ。
砲弾の発射準備は整った。
敵を視覚として捉え直す。
御影石の獅子に叩き付けられ、牙に絡み取られた少女の肉体。
一瞬少女の表情が写った。
喘ぐような形でこじ開けられた口。虚ろな目、上瞼に吸い込まれつつある瞳孔。
少女の瞳孔が完全に姿を消し白目になったと同時に、俺は信管のスイッチを入れた。
全身の筋肉と、気。それが拳に集中する
俺は叫んだ。
「Dynamite!」

砕く。
引き裂く。
壊す。

スローモーションの様に周囲を捉えていた自身の感覚をもってしても、その腕の動きは瞬間移動にしか知覚出来なかった程に早かった。
そして拳は正確に彼女の側頭部を捉えた。
鉄槌となった俺の拳と金床となった御影石の獅子の両方から少女の頭蓋に衝撃が走る。
そのまま拳から全ての気を放出した。
高揚感が全身の感覚を麻痺させ、その僅かな一瞬に少女の頭部の背後に飛び込んだ存在を見失わせた。

俺の拳と気が爆発した。
グニャリ。御影石の獅子が圧力を受け止めきれない。全身に亀裂が走っていく。
少女の頭蓋骨がその獅子にめり込みながら軋むのが分かった。
少女の肢体が稲妻を受けたのと同じように硬直する。
俺の拳からは、彼女の頭蓋骨側面、そしてその奥にあるもの向けて膨大な量の気が放たれていた。
俺は漸く自分が”気”の砲弾を放った相手がキャロルだと再認識した。
放たれた気は彼女の肉体を暴走しながら通り抜けた。
血液が沸騰し、心臓の中を逆流する。
神経の電流がショートし、あらゆる神経、そしてそれを司る脳細胞を焼いた。
彼女の肉体組織の全てを引き裂きながら壁に亀裂となって伝わっていく。

表情が消えうせた筈の相貌の筋肉が引裂けんばかりに痙攣し、キャロルの目と口をあり得ない程の大きさで開かせた。瞳は完全に反り返り、白目を剥いた。
その白目は暴走する"気"により光輝いた。
そして、唇からは彼女が肺の容量を遥かに超える質量の空気、いや彼女の”気”と俺の”気”が混ざった膨大なエネルギーを押し出した。
「!!!!!!!」
絶叫と言う言葉さえ生ぬるい声が絞り出せられる。
キャロルの肉体は、俺の気を受け止め切れられず、光、音となって外に溢れでた。

砕けていく獅子像、そこにキャロルの頭部、全身が押し込まれていった。
手足を折り曲げた不自然なポーズのまま。
拳から硬い物体がひしゃげ、潰れていく感覚が伝わった。
直後、獅子像は完全に崩壊し、彼女の肉体が埋め込まれていった。
この感覚、拳の先にあるものは原型も留めない程破壊される。
俺は自分の主人の命令を破った。
彼の許嫁となったであろう少女の頭蓋を砕き、その命を奪ったのだ。

だが、何の感慨も湧かない。
潰れた頭部を確認して、主人に俺がキャロルを殺した事を報告しよう。
俺は、自分の拳が埋め込まれた目の前のオブジェを眺めた。
かつて獅子の姿をしていた御影石の破片と砕けたキャロルの肉片で出来たオブジェ。

「獅子王よ。終わりました」
俺は事務的に呟いた
「…キャロルは」
「お望みとあれば」
俺は拳を引き抜いた。
目の前のオブジェが崩壊していく。
やがて、岩石とは異なる物体が姿を表した。

キャロルの身体の一部だ
微動一つしなかった。
未だ頭部は見えない。
既に存在していないだろう。
代わりに俺の拳の中にはかつて人間であった頭蓋骨と筋肉と脳の破片がミキサーされたものが入っている。

筈だった。
俺は自分の拳を見て、自分の目を疑った。
そこに張り付いているであろうキャロルの肉と皮膚と骨の破片の姿が無かった。血糊さえ殆ど。

目の前のオブジェ。この中で、彼女は生きていると言うのか?
御影石の破片を払っていった。
獅子の残骸に噛みつかれたキャロルの肉体が徐々に表れる。
未だ頭部は完全に埋もれていたが、徐々に全身が現れる。
人間と思えない不自然な姿勢。
だが一方で、彼女の肉体は砕ける事なく、見事なプロポーションを維持していた。
鎧は彼女の肉体を致命的な破壊から守っていた。
鎧は至る処にヒビが入り、衣装は擦り切れていたが、素肌は殆ど傷が無かった。
肌は陶器の様に白く、滑らかだった。温もりが残り、僅かながら気脈の様な流れも感じた。

「生きていると言うのか」
焦りながら目の前の砂利を払った。
「バカな。砕けない筈が、死なない筈があるかッ」
思わず呟きながら砂利を払い続けた。

やがて頭部が姿を表す。
僅かに砂利と化した御影石がこびりついていたものの、そこには破壊されないままの、キャロルの秀麗な容貌があった。白目を剥き、絶叫の表情のまま硬直していたが、顔面に傷は殆ど確認できなかった。

「ば、ばかな」
思わず後ずさる。
あの拉げる感覚は一体?

まじまじと自分の拳を見つめる。
俺の感覚が壊れているのか。
指の一本一本を動かす。
確かな感覚。そして動きにも問題がない。
俺は狂っちゃいない。
その時、キャロルから気脈が拡散し消失していく感覚を覚えた。
皮肉にも、それが俺を現実に引き戻した。
“気”に対する感覚も鋭敏に残っている。

では何故?
俺は、壁にめり込んだキャロルに近づいた。
見開かれたままの白目。
大きく開かれた唇から血の混じった涎の痕跡があった。
頬に触れる。
「…」
肌は蒼白く、滑らかで、冷たく生気を感じなかった。
生命が失せた直後の若い人体特有の肌だ。

脈が無い事を確認する為、首筋に手を触れようとした瞬間。キャロルの頭部は壁から剥がれ始めた。
少し遅れて胴体、そして腕が剥がれ崩れ落ちていく。
ゆっくりと、スローモーションを見る様な動きで頭上に放り出された腕も、脂身の少なく腰骨が浮き出た股から垂れ下がった鼠蹊部から垂れ下がった脚も、指先まで完全に力が抜けきっていた。
山頂から崩落した岩石の様に、意識が途絶えたキャロルの肉体は、瓦礫の山の中あちこちぶつかりながら転がり落ちていく。
そして、最後に大きく弾むと、頭から床に落ちていった。

ドサリ

骨と大理石が衝突する音が響く。
そしてボーリングの球の様に、僅かにバウンドし、再度頭部から地面に落下した。

今度は砂利を入れた袋が落ちるのと同じ音がした。
そのまま一回転し横向きの姿勢で横たわる。
細く長い頸が折れ曲がり、それが支える頭部が
ズルリ
と垂れ下がった。

それが彼女の見せた最後の動きだった。
全く動かなくなった。

俺は動かない彼女の肉体と、破片に埋め込まれていた物体を交互に見た。
ボールだ。彼女が武器としていた。
俺は、自分が放った足刀によってボールは明後日の方向に吹き飛ばされたと思い込んでいた。
しかし、事実は違った。
ボールは部屋を跳ね回り、最後には自分の持ち主に戻ってきた。
俺が最後の一撃を放つ際、彼女の彫像と頭部の隙間に。
それがクッションとなって彼女の頭部が粉砕されるのを防いだ。

「バカな」
自分で自分の考えを否定した。
「あり得ない」
「だが、起きた」
主人の声が響く
そう実際にそれは起きた。

俺はボールに触れた。
ボールも破片から剥がれ、落下していった。
そこからは彼女が込めた”気”の残滓が感じ取れた。
先ほど僅かに感じた”気”の正体だ。
彼女自身はあの時点で”気”を喪失していた。
ボールを目で追う。
それは、キャロルの傍らまで転がり、止まった。
キャロルは先ほど横たわった姿勢のまま、痙攣を繰り返していた。
俺はゴーグルの探知モードを切り替えながら彼女を見つめた。
小型のAEDが何度も、彼女の心肺機能を復活させようと足掻いていた。
電流が流れる都度、彼女の心臓はただのタンパク質の物体と化していた。
物理法則に従って痙攣するが、鼓動を繰り返さない、
何度から電流が流れた後、AED近辺に一瞬スパークが走り、僅かに白煙を上げて動かなくなった。
心臓近辺は如何なる動きも無くなった。
サーモグラフィーは、彼女の体温が30℃を切っている事を示している。
そしていかなる”気”も感じない。
彼女の頭部をあらゆるモードでスキャンした。
ボールが守ったのだろう頭蓋骨には大きな損傷らしきものは無かった。
だが、その奥の脳から、神経電流も血流も気も存在しない。
ただの崩壊した神経細胞の塊であった。

終わった。

「キャロルは息絶えました」
「…そうか」
「申し訳ありません」
「気に留めずとも良い」
俺は耳を疑った
「何故?」
「所詮、その程度であったと言う事だ。我にも目が曇る事があったか」
「キャロルがお前を倒し、新たな我の右腕となる事を期待したが…逆にこの様に屠られる事になろうとは…」
暫し沈黙が生じた
「…もう用は無い。キャロルの死体を医療スタッフに」
「…」
「細胞サンプルを採取した後は、遺体は家族に引き渡す。細胞サンプルさえあれば、クローンも可能だ。我に相応しい女がいない場合には一から育てるのも一興だろう」
「獅子王よ」
「何だ?」
「キャロルですが…ご容赦戴けるなら私に戴けますか?」
「…よかろう。然るべき処置の後、キャロルはお前に譲る。
記念品として保存するか?
お前が望むなら、それ相応の保存処置もかけてやろう。交合出来る人形とする処置でも良いぞ
一皮剥けたお前の祝福として、な」
「…では」

俺は横たわるキャロルの亡骸を見つめた。
キャロルを仰向けにする。
左腕は頭上に、右腕は脇に投げ出さる。
生気の失せた脚。
先ほどとは打って変わり安らかな表情であった。
青ざめた、僅かに開かれた唇。
うっすらと閉じられた瞼と、それを彩る長い睫。

「急げ。この季節ならば腐敗の進行は遅いが…」

俺はその言葉が終わるのを待たず、キャロルに向けて拳を放った。
「Dynamite!」
「何!」
主人から驚愕の声が響いた。
俺の拳は、キャロルの心臓を撃ち抜いた。
僅かに四肢が、頭が跳ね上がり、そのままドサリと床に転がる。
「な、何をする!」
俺は拳をキャロルの胸にめり込ませたまま、全身の気を注ぎ込んだ。
「ウォォッ」
冷え切り、生命を失った肉体を通して気が床に流れ込む。
キャロルの身体が瘧の様に震えると同時に床に亀裂が走った。
そして砕けていき、星の光を反射する鏡の様な水面が視界に入ると同時に、落下が始まった。
謁見室の全て、調度品、砕けた獅子像。
そして俺と、事切れたキャロルが
謁見の間は湖の上に建てられている。
床を砕けば、そこにあったものは全て湖、と言うわけだ。

一瞬の無重力状態の後、俺は着水した。
水面に上がると目的を探した。
居た。
金とラピスラズリの服をまとった人間の背中。
キャロルだ。うつ伏せになっていて、背中と金髪、リボンだけが僅かに見える。
キャロルに泳いでいく。
意識が途絶え、呼吸をしなくなった人間には、肺や内臓に水が一気に入り沈んでいく。
そうなる前に…彼女を

だが、彼女まで思ったより遠い。
目の前でキャロルはどんどん沈んでいく。
ダメか
そう思った瞬間。
キャロルの頭部に泡があがった。
一度、続いて二度
やがて手足が僅かに水面に出る。
それが痙攣であれ、生命に由来する動きである事は明らかだ。
「キャロル…!」

俺は思わず叫びながら、彼女に向かって泳いだ。
彼女を抱え、頭が水面に沈まない様に岸辺に向かう。
先ほど一瞬だけ動いた手足だったが、今はまたぐったりと力失せていた。
水面に挙げられた顔面からは完全に表情が失せている
脚に地面の感覚が伝わる。
少しでも早く彼女を水面に挙げる為、彼女を仰向けに肩に載せて運んだ。
アルファベットUの字を反対にした様に大きく反り返るキャロル。
水面に浮かんでいる手足は、俺の動きに合わせて漂うのみ。
水面が下がると共に、彼女の手足、頭部が垂れ下がっていく。
それらは俺の動きにあわせて壊れた振り子のように揺れるだけで生命や意識を全く感じさせなかった。
水面が腰より下になった時点で、キャロルを横抱きに抱えなおした。
青灰色の肌を伝う水。肌の温度は水の温度と同じレベルに下がっている。
「貴様…何の積りだ!」
獅子王の怒りに満ちた声が聞こえる。
「今戻る」
それだけ言ってイヤフォンを外した。
キャロルを抱えたまま獅子王の館に戻った。
その間、キャロルの肢体を何度か眺めたが、彼女に変化はなく。
僅かに隆起を繰り返す胸以外、全ての筋肉が機能を停止し緩みきったゴムとなっていた。
力なく閉じられた瞼は、首が大きくのけ反られた事で、僅かに開き、そこから僅かに銀色に光る白目が見えている。
館の正門から入り、主人専用の部屋に入った。
キャロルを浴槽に横たわらせた。顔が沈まない様にへりに首を乗せ、ぬるま湯を入れる。
その間に使用人を呼びつける。
彼らは戸惑いながらも、医療スタッフと、メイドを呼んだ。
湯船の中、キャロルの表情は安らかになっていくのが分かった。
僅かに唇が震える。
医療スタッフと、執事が役割を果たしてくれる事を期待して、俺は自分の身支度を整えた。

一時間後、キャロルは真新しい衣装を身にまとい。ベッドに横たわっていた。
医療班が彼女の容態を説明したが、全て俺は彼女の”気”から理解していた。
恐らく数日は完全に人事不省が続くが、後遺症も残さず回復する。
実際その通りだった
俺は彼らに礼を言うとキャロルを再度横抱きにして、主の居るであろう崩壊した謁見の間に向かった。

久々に その6

獅子王-
その権力は世界の全てに知られている。
だが裏社会でさえその実像は殆ど知られていない。

その獅子王の謁見の間。
3人の人間がいた。2人は鋳型で作成されたかの様に瓜二つの、鎧をまとった巨人。
獅子王だ。それが2人いる。

もう一人は、獅子王の片割れに抱きかかえらえた少女。
ファンタジーの世界にしか存在しない、華麗な衣装をまとっているが、全身の筋肉からは完全に力が失せ巨人の腕の中でぐったりとしていた。
死んでいるのか、気を失っているのか。

少女を抱えた男は傍らに少女を昏睡体位で横たわらせると、自分と完全に同じ姿をした男と相対する。
「…何の積りだ」
「彼女にも見て貰いたくてね。真の獅子王の誕生を」
「ジェイク、正気か」
「今日から俺が獅子王だ。お前はこれから俺の影として働くか、さもなくば死ね。アックス・イーグル」
アックスと呼ばれた男は、ゆっくりと剣を抜いた。
「キャロルの件、退屈凌ぎの積りだったが…」
アックスの全身から凄まじい闘気が立ち上るのがジェイクには分かった
「久々に血が滾る事になりそうだ」
「安心しろ。俺がその血を全て流してお前を冷やしてやる」
ジェイクは剣を抜いた
「失望させるなよ」
「当然」
ジェイクは失神しているキャロルを一瞥した。
もし意識があれば、これから戦いが見える様に頭部ののけ反りを合わせておいた。
先ほどまであれ程のダメージ。死に至る傷を負いながら、今は安らかに眠っている様な表情。
「キャロルにも申し訳が立たないしな」
「情でも映ったか?」
ジェイクはニヤリと笑った
「…何がおかしい」
「そんな詰まらん事しか言えんとは、あんたもヤキが回ったな」
「…容赦せんぞ」
アックス-真・獅子王は剣を構えた。
ジェイクも返礼する。
「判りきった事を…」
ジェイク。獅子王は猛然とかつての主に向かって走り出しながら先ほどの戦いを思い出した。
-誇りと自由は死を忘れさせる。
-俺は大事なものを忘れていた。
-それを取り戻した今。俺は負けない

No title

>575さん

どうも!お返事遅くなりました。
いつも大作お疲れ様です。いつも息子が大変お世話になっております。(下ネタ)
なかなかモチベが上げらないときは575さんの過去の作品(特にボク娘編)をよく読んで満足して寝てますw

今回はかなりハードな感じですね。大変読み応えがありました。
風雲黙示録は記憶ではそこまでストーリー重点ではなかったので
獅子王と真獅子王あたりの関係性とかすっかり忘れてましたw
そーいえばそうだったと・・・
獅子王も絡んだリョナ絵とかも描きたくなりました。
これだけのモノこんな場末のブログには勿体無いです。
もっとみんなに読んでもらいたいですね
プロフィール

makusaruta

Author:makusaruta
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